朗読劇「ガザ 希望のメッセージ」は、4つの異なるテクストから構成されています。いずれもガザから外の世界にいる者に向けて発信されたメッセージです。ひとつは2008年から2009年にかけてのガザ攻撃をリアルタイムで証言したサイード・アブデルワーヘド教授の『ガザ通信』。2つめはパレスチナ人作家、ガッサーン・カナファーニーが1956年に発表した短編小説「ガザからの手紙」。3つめはパレスチナ人の人権擁護活動のためガザに赴いたアメリカ人女子大生レイチェル・コリーさんが、ガザからアメリカにいる家族や友人に宛てて送ったメール。そして、4つめが、2008年から2009年の攻撃の際、ガザで活動していた「インターナショナルズ」と呼ばれる外国人人権活動家のメッセージです。
これら複数のテクストをコラージュするというアイデアは、ガザをテーマに朗読劇をつくることを思いついた当初から、私の中にありました。単に、時代が変わってもガザでは同じことが繰り返されている、ということを訴えるためだけではありません。それなら新聞記事でもできることであり、肉声の力も必要なければ、芝居にする必要もありません。異なる時代、異なる書き手によって書かれながら、しかし、これらのテクストには時代を超え、書き手の違いを超え、ある共通の思い、共通のメッセージがこだまのように反響している、そのメッセージを私たちが聞き取ることこそが大切であり、必要だと思ったからです。そして、文学だからこそ、肉声だからこそ、それを伝えうるのではないかと思いました。
初演は2009年7月。「ガザ 希望のメッセージ」と題し、AALA(アジア・アフリカ・ラテンアメリカ)連帯京都美術委員会主催の第35回頴展「アウシュヴィッツ、ヒロシマ、ガザ」で、京都大学総合人間学部の「思想としてのパレスチナ・ゼミ」に参加する学生4人が演じました。
同年9月、つばめクラブのプロデュースにより京滋市民有志によって再演されます。このとき、初演時にはなかった「インターナショナルズの証言」と「レイチェル・コリーさんの最後のメール」を新たに書き加え、タイトルも「The Message from Gaza~ガザ 希望のメッセージ~」となりました。この公演を神戸の劇団「どろ」の演出家、合田幸平さんがご覧になり、同年12月、「どろ」によって神戸でも上演されます。
翌年、「中東カフェ」からお声がかかり、2010年3月、広島で再演。さらに翌2011年5月、京都大学で開催された中東学会年次大会を舞台に1年ぶりに演じることになりました。この間、東北の震災があり、福島の原発震災が起きました。圧倒的な破壊と日々、更新される死者の数…、土地に深く根ざしてきた者がそこから引きはがされる痛み…。逃げようと思えば逃げられたのに、そこにとどまった者たち…。そして、選択肢すらない中で、しかし、自らの運命を引き受けて行く者たち…。被災地とガザが、福島と63年前のパレスチナが重なります。その痛みにどこまで肉薄できるのか、私たちの想像力が根本から問われているのだということをこのとき突き付けられました。