〈つながり〉 と 〈想像力〉 を力にして

安藤栄里子

想像力。私たちの多くが失いつつあるものが朗読の中にありました。身体感覚を伴って初めて痛みは立ち上がる。朗読という空間で人びとの痛みに寄り沿い、想いを馳せ合うことができたなら。それこそが今、未曾有の難局に向き合う私たちにとっても、自分の命を生き抜くことにつながります。

2009年8月。イラク戦争に従軍した米兵たちの証言集『冬の兵士』の日本語版刊行を機に同書の朗読会を開催、肉声の力に出会いました。ガザ戦争をモチーフにした朗読劇があると知ったのはその直後。我らが座長、岡真理さんが脚本化し、その7月にAALA(アジア・アフリカ・ラテンアメリカ)連帯京都美術委員会の頴展で演じられた作品でした。それを再演すべく京滋の市民有志が結集。脚本は加筆され、タイトルも「The Message from Gaza~ガザ 希望のメッセージ~」と改められました。9月11日、朗読集団「国境なき朗読者たち」(つばめクラブ企画)により出町柳のカフェかぜのねで再演。約50人の聴衆が、すし詰めになりながら、ガザの無数の声を全身全霊で追いかけて下さいました。朗読空間を共にした方々と、ガザに往って還ってきたような90分でした。

そして翌2010年3月、東京外国語大学の酒井啓子先生のお声かけで、ヒロシマ公演(世界を対象としたニーズ対応型地域研究推進事業)の機会を得ました。会場には「塀の向こう、空爆下のガザにいる夫の身を、受話器を握りしめ案じました」とおっしゃる女性が福岡から駆けつけて下さり、瓦礫の上を吹きわたる風を想像力が呼び込んだと感じました。今年5月には京都大学で開かれた「中東学会」で、アラビア語やパレスチナ問題について学ぶ学生さんたちと共に力いっぱい演じました。
そして今回、これらを観てくださった方々より「東日本大震災のチャリティに」と再演の機会をいただきました。今日、ここに足を運んで下さったみなさま方と共に、この作品を通じて、被災地への「想い」を「カタチ」にできることに心より感謝いたします。

ぜひ劇中の挿入音楽にも注目していただきたいと思います。国際舞台で活躍する作曲家、田村喜久子さんが書きおろして下さったオリジナルであり、みなさまをよりリアルなガザへと誘ってくれることでしょう。

ガザからフクシマへ。私たちは明日を諦めません。今日の朗読空間が、痛みに寄り添う人と人をつなぐ確かな時間となりますことを心より願っています。

 

あんどう・えりこ(1969年6月4日‐2012年4月14日) つばめクラブ・プロデューサー

[本稿は、2012年12月の京都国際交流会館でのチャリティ公演を前に執筆されたものです]